先ほどのテレビで遭難者を出したツアーに参加していて助かった3人の女性の証言が放送されていたが、その中の一人で自力で下山した方の話に興味を持った。
天候はそれほどひどいとは感じなかったそうだ。また、多くの方が亡くなった北沼を通過するときも風が強くて波立っている水面を見て「怖いねー。すごいねー。」と言っていたとのこと。
実は「怖いねー。すごいねー。」と口に出して言うことが冷静さを保つ秘訣でもある。我々も「やばいじゃん」とか「いやーすげー」とか声にだして言うことがあるが、これが心を落ち着かせる方法だ。
この方は登山暦も長いようで、おそらく過去にも色々な状況を経験してきたと思われる。だからこのような状況下でも比較的冷静さを保っていられたのではないか。
実はこれは重要なことだ。私が以前所属していた一流山岳会の山行では色々な経験をさせられた。夜通し歩く山行では雨の中でも歩いた。冬の富士では一人一人ツエルト(簡易テント)を持ちばらばらになって一夜を過ごさせられた。
このように日頃から自ら厳しい自然の中に身を置く訓練をするようにいわれた。そのような状況に追い込まれたのではなく自分で積極的に身を置いたのだから比較的冷静さを保つことができる。その経験が万一の場合に無事生還する上での重要な要素となる。
少々天気が悪いからといって停滞とか引き返すとかを繰り返していたらいつまでたってもひ弱なままである。そしてそれをさらに鍛えてくれるのが自らの判断力を駆使して歩く単独登山である。
よく単独で登るのは危険といわれるが根拠がない。もし二人で登っていたときに一人になにかあったら残された人間はそこから単独で判断し行動しなくてはならない。三人でも同じで、一人が付き添い、もう一人が救援を求めに行くことになってもその人は自らの判断で行動しなくてはならない。日頃から単独行で鍛えておかなくては冷静に対処することはできない。
さて先ほどの女性は、亡くなったガイドは自分が着ているものをほかの人に与えていたという事実も話してくれた。