5月31日の奈良旅行の続きである。
中宮寺のあと、すぐそばにある法隆寺の夢殿に立ち寄り、駐車場にもどってすぐ北にある法輪寺に向った。
ここでは十一面観音像などの重要文化財の平安時代の仏像たちを見る。
そのあと西にある、1300年前に建てられた国宝の三重塔が美しい法起寺を訪ねた。
そしていよいよ慈光院だ。私が大好きな場所で、江戸時代初期に大名であった片桐石見守貞昌(石州)が父親の菩提寺として建立した寺である。石州は茶人でもある。
ごつごつした石敷きの狭い道を上って駐車場に車を停め、深山の趣を漂わせる道を歩いて行くと直角に左に曲がったところに茅葺の楼門が現れる。
もともとは石州の伯父が城主だった摂津茨木の城の楼門であったが、城が取り壊される際に移築して茅葺に換えたものである。だから正式には茨木城楼門という。
楼門をくぐると右斜めに石畳の細い道が刈り込みの間を書院に向って延びていく。思わず歩きたくなるが立ち入り禁止である。左奥の寺務所の建物で靴を脱いで渡り廊下で書院に行く。
広縁に囲まれた十二畳の書院からはツツジを大きく刈り込んだ庭と低い生垣越しに大和盆地がみえている。ツツジは今オレンジ色の花を咲かせている。
緋毛氈に座り出された抹茶を飲んでいると静かな空気が全身を包んでくれる。
そこへ住職が出て来た。私が学生時代、というとかれこれ45年ほど前になるが、寺院建築の第一人者の堀越三郎先生とここを訪れたことを言ったところ住職が案内を始めた。書院から茶室へ移り、数奇屋造りの権威だった堀口捨巳氏の見解などを語りながら説明が止まらない。そしてもう一つの閑茶室を案内されここでも説明が続く。
このあと26年前に再建された本堂に行き、立ち入り禁止の堂内に案内されて天井の龍の下で一人一人手を叩き鳴龍を体験する。その間話の尽きることがないのには少々閉口気味であった。
こんど来るときには黙って書院に座り、大刈り込みの庭を静かに眺めていたい。
住職に礼を言って名物の蕎麦で昼食をとって一息入れる。
慈光院を後にして、カーナビに従い来た道を忠実にもどる。途中で朱印帳を持つ女性のSさんの希望で大安寺に寄ったあとJR奈良駅そばのレンタカー店に到着する。京都に行くのに便利な、少し離れたところにある近鉄奈良駅に親切にも店の車で送ってくれた。
実はここのJAで古来のチーズといわれている「明日香の蘇」を買うつもりだったが予約制とのことだった。残念!
京都へ出て午後5時半発の「ひかり」で一路東京に向った。あきらめきれないのか男性のSさんは電車の中から携帯電話で「明日香の蘇」を予約していた。