今から40年も前、シューベルトの交響曲「未完成」のレコードを買おうとレコード店に寄った。
どの指揮者のを買おうかと何枚かのレコードを試聴していたら衝撃的な演奏に出会った。
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団演奏である。
他の指揮者たちの甘くて叙情性を前面に出した指揮とは違い、ベートーベンの交響曲のように力強く、それでいて、いやそれだからこそシューベルトの叙情的な面が一段と意味深く感じられる演奏であった。
思わず「これだよ!これがシューベルトだよ!」と心の中で叫んで買ったのであった。
その後、「未完成」を叙情的に演奏することに疑問を持つ指揮者たちがブルーノ・ワルターなど数多くいることを知った。
岩城宏之氏もその一人で、年1回ウィーンで虫干しされるシューベルト自筆の楽譜を見て、アクセント記号が中途半端に長く、当時写譜されたときに段々と弱くなるデイミヌエンド記号に間違えられたのではないかと思ったそうである。
そのレコードも、たとえ持っていたとしても今の耳では正確には聴き取れないだろうからここへ引っ越すときに処分してしまった。