ねむの木村を後にしてバスは狭い道を走って行く。 倉真温泉に向う道に入ると瓦屋根を青いシートで覆った家々が目立ってきた。
先日あった地震の跡だろう。
倉真温泉の真砂館は、信仰のために人々が揚げたたくさんの観音像がある百観音という場所へ宿泊客を案内した犬でも有名な宿だった。そこで翌日その百観音を訪ねてみた。それは山の中腹にあった。
正面に真新しい大きな観音像がある。
そして左手のヒノキ林の斜面にたくさんの小さな観音が置かれている。
皆訪れた人たちによって置かれたものだった。
しかしそれよりも目を引いたのは奥の竹林を背に、大岩を太い根で抱え込んで存在する大きな木である。
観音像よりもこれこそここの主ではないか。
この山を去るときにバスの中から振り返って見た山からは何か気のようなものが感じられた。
そうか、この山こそがたくさんの観音像をやさしく包み込んでいる観音様なのだ。