10月7日、晴れだか曇りだかはっきりしない日だ。
5日、6日と我々建築家集団では軽井沢の建築見学会をおこなった。
見学の主目的は2011年に西沢立衛氏設計でできた千住博美術館であった。
しかし旅行が終わってみれば、私の心には6日に訪れた、アントニン・レーモンド
設計の軽井沢の新アトリエの印象が強烈に残っている。
今は個人所有になっているこの新アトリエの見学が実現したいきさつは2日の
ブログに書いたので読んでもらいたい。
6日の朝9時半、我々は車2台に分乗して、バイパスから離れて、湿気が感じ
られるような林の中の狭い道を登って行った。
突き当りを右折すると12角形の居間を持つ目指す建物が見えてきた。
居間の真ん中にある暖炉の煙突が特異な姿を見せている。
しかしもともとは部屋のある部分の屋根は、鋼板の上が茅葺になっていて、
さらにコンクリートの煙突の下部は茅で隠されていたのが2日のブログに
載せた資料の写真でわかる。
突き当りに車を停めて、玄関に向かう。
左手の竹垣は使用人室のプライバシーを守るためのものである。
玄関で靴を脱いで右手に行くと12角形の居間に出る。
右手奥に床を高くした和室が見えるが、和室と奥の個室には暖炉に隠されて
見えない向こう側にある階段を上って行く。
壁は合板、いわゆるべニア板張りである。私がお客様の家の壁に使ったら
怒られてしまうほど質素な造りである。
上を見ると、小屋組みが見える。
この小屋組みがこの部屋の雰囲気を豊かなものにしている。
そして大きな暖炉だ。焚口には馬の形をした二つの薪置きが並んでいる。
おもしろいことに、後ろ側も開くようになっていて、客が多いときにはこちらからも
暖をとることができる。
ただ、炊き始めは閉めておき、燃焼が安定してから開けないとうまく燃えない
だろう。
階段を上って奥の和室に入る。
そして和室から居間を見る。
玄関からの入り口はちょうど暖炉の向こう側にある。
和室の襖の和紙は独特のもので、この建物の今の持ち主のK氏は張り替え
たくても同じような紙が見つからないと言っていた。
奥の部屋からは林の遠くまで見通せて気持ちがよい。
居間にもあったが、ソファーを引き出すとそのままベッドになる。
家具は夫人のノエミ・レーモンドのデザイン。
居間の壁際にはレーモンドが作った陶器が置いてあった。
そして壁には画いた絵や、在りし日の夫妻の写真もかかっていた。
ここで1時間半の時間を費やした後、いつまでも立ち去り難い思いを残して
この家を後にした。